先駆者―ヤマト2199 another story―

 
「お姉さま! ズルカル星系が…消滅したって…」
悲鳴に近い声が、静かな部屋に響く。
呼びかけられた美貌の女性は、その声に眉一つ動かさず
「これで漸く」
眼差しをゆっくりと伏せる。
「遠い昔に行った過ちが清算されるのですね」
 
「いえ、まだよ」
別の女の厳しい声が響いた。
ガミラスは銀河系への遠征を計画しているわ」
細い眉がひそめられる。
「重力地図が作成されてないから多くの艦艇は失われたけど、それでも数十艦が到着している。既に惑星浄化に着手済。先住民は…まだ生き延びているわ」
 
「助けようよ!」
若い声−ユリーシャが叫ぶ。
「そして、銀河系で同じ過ちを繰り返すの?」
厳しい声−サーシャが応える。
 
過ちを繰り返すことはできない。
遠い昔、ガミラスに救いの手を差し伸べたために、大マゼラン銀河は征服されたのだ。
「その過ちは私たちの罪」
美貌の女−スターシャが言う。
ガミラスの銀河系への進行は止めなくてはなりません。そして、同じ過ちを犯すこともできません」
「何か策でも?」
 
「先住民に第二世代波動エンジンを渡します、一機だけ」
「第二世代!」
「危険よ! もし第二世代を複製されたら…」
「それを防ぐために、貴女達が同行して監視するのです」
 
ガミラスに提供した第一世代波動エンジンに比べ、桁違いの出力を持つ第二世代。使い方によっては、宇宙を破壊することさえ可能な力。
但しその力を使えば、空間歪曲と慣性制御を使った防御壁により不死身とも言える耐久力を持つことになる。その船ならば、一隻であってもガミラスに対抗できるかも知れない。
 
最初に、ユリーシャが波動エンジンの設計図を地球に届ける。しかし、その設計図だけでは動作しない。
「1年後にサーシャが持っていく波動コア、それが無ければエンジンは起動しません。その事実がユリーシャ、貴女を守るでしょう。そして1年間で、地球人を見定めなさい」
「私はユリーシャと連絡を取って、他系を征服するような民であればコアを渡さないのね」
「いえ、コアは渡します。貴女たちは、波動エンジン搭載船がガミラス艦と補給基地を沈めた後、脱出するのです」
 
波動コアには仮想人格を組み込む。この人格が、ユリーシャとサーシャ2人の脱出を支援し、その後、波動エンジンの炉心を破壊する。
地球を復旧させるシステム−コスモクリーナ−は、イスカンダルで受け渡す。他に超光速船を持たない地球人は、コア搭載艦をイスカンダルに派遣するしかなく、複製する時間的余裕は無い。
 
「それなら、うまく行くかもね」
「うん、大丈夫だよ」
細部を詰めた後、ユリーシャを送り出した。
そして1年後、サーシャを送り出し、スターシャは孤独になった。
 
「叶うなら地球人…征服者でいて」
遠い星の彼方にスターシャは祈る。
「もしそうなら、二人は戻って来る。銀河系内のガミラス艦と補給基地程度なら、その船だけで沈められるはず…」
しかし、地球人を二人が認め、その船がイスカンダルに来たならば
「帰すわけにはいかないわ…」
 
宇宙を破壊しかねない力、それはイスカンダル自身も使う気になれなかった力。
それを他種族に渡すなど、出来るわけがない。
 
辿り着いた船を帰すことはできない、ここで沈んでもらう。いくら耐久力が高くとも、ガミラス本星の攻撃に耐えられる程では無い。
ただ、その時には二人の妹も失うことになるだろう。
 
いずれにしても、とスターシャは思う。
「私は、間違いなく地獄に堕ちるのでしょうね…」
イスカンダル最後の女王は、そっとつぶやいた。

宇宙消失 (創元SF文庫)

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