依存(西澤保彦)

「依存」を再読
 
 tema的には「ボアン先輩シリーズ」の、いや西澤保彦の最高傑作。
 主役はタカチ&タックである。語り部はウサコである。しかし読了後、一番心に残るのはボアン先輩の格好良さである。この小説は「ボアン先輩を如何に格好良く書くか」という点に注力し、その他の登場人物・状況を配置した、という読み方も出来る。
 
 ボアン先輩は、お気楽極楽なお祭り男。しかし一旦事あらば...という男である。これは、いい男の王道と言えよう。
 このボアン先輩、「雨ニモマケズ」に出てくる理想像にちょっと似ている、と気が付いた。
 
 丈夫ナカラダヲモチ
 慾ハ深ク
 決シテ瞋ラズ
 イツモ大声デワラツテヰル
 
 ボアン先輩は、いざという時に皆から頼りにされ期待に充分応えられる一方、人の上に立とうとは思わない。一方、temaの場合、人の上に立とうと思わない処は似ているが、期待に応えられる自信が無いため頼りにされたくない、と思う部分が違う。
 
 「頼りにされたい」という思いと「人の上に立ちたい」という思いは、セットになりやすい。というか、それをセットで持っている人は良く見かける。ボアン先輩の場合、「頼りにされたい」という思いと「人の上に立ちたくない」という思いが一つの人格に同居している。この人格は謎だ。
 謎であるが故に、この人格は一層魅力的である。
 
 ミンナニデクノボートヨバレ
 ホメラレモセズ
 クニモサレズ
 サウイフモノニ
 ワタシハナリタイ
 
 病気の子供の看病を進んでやる人物は、通常、誉められるだろう。
 喧嘩や訴訟の際、「つまらないからやめろ」と言うようなお節介な人物は、通常、苦にされるだろう。
 そのような状況に於いて、人々の感情を高ぶらせることなく場を収める。そういう者に、temaはなりたい。
 
追記
 「ボアン」をWikipedeiaで引くと、ケルト神話の神々にその名があった。
 このシリーズにおいて、確かにボアン先輩は神なのかも知れない。
 
追記2
 もっと検索してみると、「ボイン川の女神」と出た。
 ボイン川...しかも女神...

依存 (幻冬舎文庫)