桜さくら

 
それは3月後半、ソメイヨシノが咲き誇っていた頃。ちょっと遠回りして桜を見ながら帰った事がある。
武道館を抜けると、道路の向こう側に神社が見えた。祭りでもやっているのか、屋台が並んでいた。広い境内に入ると、満開の桜の下で宴会が行われていた。
靖国神社だった。
 
靖国神社国家神道を捨て、神道の神社になっている。ただ、それでもこの神社は特別だ。
他の神社は、生きている人を救うために在る。
しかし靖国神社は、英霊を奉るこの神社は、死にゆく人を救うために在る。そして現在、靖国が救うべき人々はすべからく死んでいる。
靖国神社は、死者を救うための神社だ。
 
靖国神社の桜は特別だ。
「死んで、この桜の花となろう」そう願って兵士は戦地に向かい、英霊となった。
ならば、靖国神社の桜は英霊であり、その桜が舞う地は死者の地である。
笑いながら酒を呑んで良い場所では無い。
 
数百年経ち、誰もが忘れてしまった後なら、かまわないだろう。
しかしまだ60年、まだ忘れるには早い。
靖国神社は、少なくとも桜の時期は、宴会などさせてはならない。
死者と、死者を覚えている人のために在るべきだ。
 
ただし、
宴会している人々が、これから戦死する予定ならば別である。
 

靖国問題 (ちくま新書)

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