ボロゴーヴはミクシィ
でたらめな詩というものが、この世には存在する。
日本で有名なものは、これである。
みじかびの きゃっぷばびとればすぎちょびれ
すぎかきすらの はっぱふみふみ
解るね
解るかーっ!
作者は大橋巨泉である。パイロット万年筆のCMであった、と聞くとなにやら意味が解りそうでやっぱり解らない。
一方、英国で有名な詩は、これである。
プリリグとなれば
ストラディトーヴはウエィブにジャイアしギンブルし
ミムジィは真(まこと)ポロゴーヴとなりて
モーム・ラゥスもアウトグレィブす
作者はドジスンである。数学者である。ロリコンである*1。
これも解らない。各々の単語には意味があり、文法的にも間違ってはいない。で解りそうで解らないところが、どうにも歯がゆい。翻訳の過程で歯がゆさは薄れているが、英語文化圏の人が原文を読んだ日にはタマランだろう。
余談だが、ピカソに代表されるキュビズムは、見る目を持った人には上記と同じタマらなさを与えてると想像する。見る目を持って無くて良かった。
さて、ドジスン作の詩に堪えかねた*2夫婦が、思いあまって一編のS.F.を作った。それが「ボロゴーヴはミムジィ」(C.L.ムーア&H.カットナー)である。
絶版本である。temaは高校の図書室で読んだだけで、持ってはいない。ちなみに、ハヤカワ変形B6版である。更に神よ!初版本であった。あの時こっそり持ち帰っていれば、今頃高値で売れたであろう。
以後、ネタバレ注意
読んだのは数十年前になるが、今も喪失感を伴う読後感を覚えている。
あらすじは、こうである。
その一家は、夫婦と兄弟の4人家族。どこにでも居るような、普通の幸せな家族であった。
ある日、父親が兄弟に例の詩が載った本をプレゼントしたところ、兄弟は自室の屋根裏部屋で、何やらゴソゴソ始めた。父親が行ってみると、床にチョークで色々な模様が描かれ、所々に滑らかな石ころが置いてあった。兄弟に聞くと、模様はかくあるべき模様であり、石ころも無ければならない所に置いてあるとの事だった。
屋根裏部屋から戻った父親は、母親に言う。「2人で何か遊んでいるよ。あの年頃の兄弟は、2人だけの秘密の決まり事とかを作って遊ぶものだよ。2人きりで遊ばせてやろう」
数日後のある朝、突然兄弟の気配が消えた。つい今し方まで屋根裏部屋で何かしている物音がしていたのに、ふっと音がしなくなり、心配した母親が見に行くと屋根裏部屋はもぬけの空だった。
父親は、兄弟の残したメモを読み、驚愕する。
一見でたらめに見える詩には、異次元への扉を開く方法が記述されていたのだ。
ただし、この世界の論理では無く、別世界の論理に従って記述されている。その論理を兄弟は「Xロジック」と読んでいた。
全ては、この詩に書かれている。ただし、父親のこの世界の論理に縛られた脳ではXロジックを受け入れられず、異次元の扉を開けることは出来ない。まだ論理に縛られていない柔軟な子供の脳のみが、異次元の扉を開くことができるのだ。
兄弟を連れ戻す術は、もう無い
少し前に「バカの壁」という本がベストセラーになった。
「バカの壁」と「Xロジック」事象としては同じ状況となるが、実際には大きな違いがある。
言葉を尽くしても相手の理解が得られない場合、また、相手が訳の分からない事を言っている場合、つい「相手がバカだから」と理由を付けてしまう。しかし、相手はXロジックで考えているのかも知れない。自分の持っている論理構造と同じレベルの構造を持つ、別の論理構造。その視点から見れば、相手の考えていることは論理的であり、自分が言っていることこそ破綻した論理なのかも知れない。
- 作者: ルイスキャロル,Lewis Carroll,脇明子
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なお、本日の表題は誤記では無い。