「官庁ヒッチハイクガイド」(国税庁)

「銀河ヒッチハイクガイド」という英国のスラップスティックS.F.がある。
その冒頭は、こんな感じ(記憶モード)。

以後、ネタバレ注意

主人公アーサー・デントの家は、高速道路建設のために取り壊されようとしていた。
取り壊しに抵抗するデントに対して、役人曰く
「この計画は1年前から公示してあった。異議申し立ての期間はとっくに過ぎている!」
その公示だが、役所の地下室にある机の引き出しの中で公示されており、地下室のドアには「猛獣に注意!」という張り紙が張ってあった

さて、裁判で国税庁が敗訴した。
http://www.asahi.com/national/update/1024/TKY200610240151.html

経緯は以下の通り。

原告は1997〜2001年の間、ストックオプションで得た利益を「一時所得」扱いで申告していた。その内、1999年以後の申告に対して懲罰的な課税である過小申告加算税を請求されていた。
原告に対して国税庁(被告)曰く
ストックオプションは、1999年以後「給与所得」扱いに変更されている」
その扱いの変更だが、周知はされておらず、税務署の窓口でそのように取り扱ってただけであった。

役人のやることは、英国でも日本でもS.F.の中でも同じである。
 
「銀河ヒッチハイクガイド」の役人はさておき、多分国税庁(加算税を請求した部門)は原告の行為を「懲罰に値する行為である」と考えている。本気で。
 
組織の規模が大きくなると、「組織内の常識」が生まれる。その組織に属している人にとって、「組織内の常識」は「一般の常識」と見分けが付かない。
今回の場合、ストックオプションの扱い変更は「組織内の常識」であったため、国税庁からすれば原告の行為は常識外れの行為である。原告が故意に誤った申告をした、としか思えないのだろう。
 
更に、国税庁は抜群に巨大な組織である。このため、国税庁内の各部門でも「部門内の常識」が生まれてしまう。
今回の場合、「周知が必要である」ということは、周知を担当している部門ではともかく、他部門には関係無い。ほとんど全ての部門において、納税者に対する周知は意識にすら上らない。
一方、周知を担当している部門は自部門に非があるため、特に発言しない。
 
結果、国税庁全体の認識としては、「ストックオプションの扱い変更」は常識であり、原告の行為は非常識で懲罰に値する行為となる。
最高裁まで争ったのは国税庁のメンツ等では無く、敗訴が確定した今でも国税庁は納得していない、と想像する。
 
多分、誰にでもtemaにもそのような「狭い範囲での常識」は在る。
それはコミュニティを成立させるために必要なことである。必要ではあるのだが、時に大きな誤解を生んでしまう。
「狭い範囲での常識」は必要だが、それを疑うことも時には必要である。疑いを持つためには、自分の常識が通用しない世界に触れる必要がある。
temaがS.F.を好む理由は、自分の常識を覆してくれるところにもある。
他民族以上に異なる常識・生活様式・考え方を、S.F.は見せてくれる。
 
そんな驚きを国税庁が与えてくれるとは、夢にも思わなかったのであるが。
 

銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)

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